企業のWebサイトリニューアルプロジェクトにはたくさんの地雷が埋まっている??(2/3)
二種類の典型的な地雷のタイプ
そのような被害を及ぼす地雷には二つの典型的なタイプがあります。
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単純に「知らない」という地雷
「知らない」という状況は組織の中で実に簡単に発生してしまいます。
- 前任者からの引き継ぎ漏れ
- 事業部の主管で別のドメインで展開されているサイト
- 対応すべき法改正(例えば改正された個人情報保護法)の情報が担当者に伝わらない
- セキュリティリスク(OSやCMS脆弱性や、組織を狙う攻撃手法)をマネージする体制がない
- 外部サイトからリンクされているURL(場合によっては前回のリニューアル時のリダイレクト対象も)
例をあげるとキリがありませんが、これらの状況を「知らない」ままリニューアルを行うと、公開直後、あるいは結構な時間が経過してからトラブルに繋がります。
「数ヶ月前に御社のサイトから問い合わせをしたのですが、担当の業務が変わったのでもう自分の個人情報を削除してください」
という要望が個人情報相談窓口に寄せられた時にどうしますか?
適切な対応ができるためには、Webサイトに紐づいた業務がきちんと具体的に組み立てられている必要があります。対応すべきことを「知らない」という状態にある時、偶然の機会で知ることができるのは稀です。重い腰を上げて調べない限り、効果的にリスクを減らすことはできません。
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具体化を「先送って合意した」ツケが回ってくる地雷
残念ですがこれも非常によくあるケースです。
極端な例えですが、「今回のリニューアルでは、左にあったこれを右に動かしましょう」
「いや、上に動かすのがベストだよ」
「いや、右に動かすべきだ」
「それでは、”動かす”ことについては合意しましょう」
「Yes」×2
こういうやりとりが、現実に起きていることがよくあります。
これは一見合意に至っているように見えますが、『動かすという合意』と動かすにあたっての宛先がセットになっていないと意味をなさないわけで、本質的には具体化できていない状態のまま、解きほぐさずに結論を先送りしたというのが実態です。
現実的には、右に動かすべき部分と、上に動かす部分を分割することがベストなのかもしれません。一般的には、立場の違いや予備知識の差を埋めるために上位概念の合意は必要です。
たとえば「目的」や「コンセプト」のレベルで合意しておくことは重要ですが、上位概念になればなるほど表現は抽象的にならざるを得ず、耳当たりのよい”ビジネスポエム”になってしまいます。「リニューアルのコンセプトはデジタルトランスフォーメーション」
「ブランディングとマーケティングのプラットフォーム化」
「ユーザーファーストのデザイン」
なぜかカタカナが多くてフレーズとして納得度があるので、そこで思考停止になって具体化に進まなくなることも多く、注意が必要な地雷と言えます。
コンセプトが「デジタルトランスフォーメーション」だとして、製品紹介のページには問い合わせ先の電話番号(アナログな連絡手段ですね)を記載するべきでしょうか?果たして「デジタルトランスフォーメーション」というコンセプトの合意から、誰が判断しても同じ結果を導き出せるものでしょうか??
「リニューアルプロジェクト」の根本的な特徴
ここではあくまで企業のサイト(それなりの人数と事業領域があって、全てを網羅的に把握できている人はいない組織が運営しているサイト)のリニューアルプロジェクトを前提とします。
企業のWebサイトにはさまざまなユーザーが、それぞれの目的で、それぞれの文脈を伴って訪ねてきます。大きな組織で事業が多岐にわたっていると、全量を把握する作業量も膨大で、かつそれらが相互に関係している場合、ひとつひとつ丁寧に問題を解きほぐして行くのは大変ですが、避けては通れないものです。
しかも、事業環境もユーザーを取り巻く環境も流動的で刻々と変化していくため、前回のリニューアルや、前職でのリニューアルがあまり参考になりません。
そのような背景の中で、以下のような状況になっているとしたら、一番大きな複合タイプの地雷が埋まっている可能性があります。
- ちゃんとプロジェクト化して「目的」をはっきりさせなければならない
- まず、予算とスケジュールははっきりさせなければならない
- デザインは競合に負けないように、と約束してしまった
- 社長にプレゼンをしてプロジェクトを成功させる約束をしてしまった
一つでも当てはまる場合は、今すぐ取り組み方を見直した方がよいでしょう。
いくらプロフェッショナルの制作会社にお願いするとしても、自分たちの組織の中でだれもやったことがない(その会社で、同じ局面でリニューアルに取り組むことは起こりえない)ことをやるわけなので、初期の段階では未確定要素が山ほどある状態です。必要な作業量がどれくらいあるのか、桁のレベルで不明確です。しかも、上限が何桁かすらわかりません。
その状態の中では、
「未確定なことを、明確にして行く作業に取り掛かる」
以上の約束はできないはずです。
この段階では、予算もスケジュールもデザインも、検討の俎上に上げるべきではありません。
それが根本的なリニューアルプロジェクトの特徴なのです。