建築とWebサイト制作は似ている?その共通点と差異について考えてみた
建築とWebは似ている、と言われることがよくあります。
確かにWebサイトは建築を参考に発展してきた経緯もあり、Webサイトが普及し始めた頃はビルの案内図を摸したナビゲーションメニューやサイトマップもよく見かけました。
有史以前から起源を持つ建築と、かたや誕生からようやく30年経ったばかりのWeb。
比較することもおこがましいとは思いつつ、共通する点について考察してみました。
知識体系の広範さ
まず最初に思い当たるのが知識体系の広さです。
建築といえば外観やインテリアといった見た目に注目が集まりますが、実際には地盤・構造・工法(木造・鉄骨造・RC造)から配線・配管といった生活インフラまで多岐にわたる知識や技術が集結しています。
※バウハウス(20世紀初頭、ドイツに存在した美術・デザイン学校)では「あらゆる造形活動の最終目的は建築である」とされていました。
建築基準法をはじめとした法律も多数あり、行政や地域社会との関わりが必要となることもあります。
Webも建築ほどではないですが、幅広い知見が必要です。
ITの知識はもちろんのこと、デザイン領域もグラフィック・エディトリアル・プロダクト・空間…と多岐に渡っています。
加えてマーケティングや広告などのコミュニケーション手法、コンテンツ制作には必要な編集・ライティングといった職能も必要です。
ウォーターフォール型のプロジェクト
知識体系の広範さは自ずと前提条件や制約事項の多さに繋がります。
ですので、建築もWebも「調査〜計画(企画)〜設計〜構築」といったいわゆるウォーターフォール型のプロジェクトが広く採用されています。
建築では一つのミスが甚大な事故に繋がりかねないこともあり、綿密な調査の上で実現可能な計画がなされるはずです。
かたやWebの場合、十分な調査もせずに前提条件や制約事項が整理されないまま進んでしまうプロジェクトもまだまだ多いように思えます。
あまりに規制に縛られすぎるのも困りものですが、失敗プロジェクトも多いWebの世界。
もう少々、慎重に計画するという視点があってもよいのではないでしょうか。
ユーザーが自由に移動できる
建築もWebサイトも利用者(ユーザー)がその内部を自由に移動できるという共通点があり、このことが建築とWebが似ているとされる最大の理由だと感じています。
(他にその内部を自由に移動できる分野・プロダクトも見当たりません。)
ユーザーの動きを示す動線(導線)という用語もWebの世界で広く使われるようになりましたし、ログインなどの認証に鍵マークが使われているのも、それが移動の自由の制限を指し示す意味で象徴的です。
ユーザーの動きとは直接関係ありませんが、ドメインやIPアドレスはインターネット上の「住所」であったり、基盤(サーバ)を土地(地盤・基礎)、Webページやコンテンツを上物(建造物)に例えたりと、建築の世界から拝借している比喩や用語が多いのも事実。
「ホームページ(※)」という言葉もWebサイトを独立した建物(=家)に見立てている何よりの証左です。
※現在ではWebサイトとほぼ同じ意味で使われていますが、本来はブラウザの初期表示に使用するページのことを指します。
意匠性と実用性の両立
建築もWebも設計者や施工者ではない「第三者」がユーザーという点で共通しており、ユーザーにとって使えないもの、実用的でないものを制作・構築しても意味がありません。
だからといって実用性ばかりに目を向けて意匠(デザイン)性を排除してしまうと無味乾燥なものが出来上がってしまいます。
Webサイトの場合、読みやすさや探しやすさといった実用面が満たされていることとデザイン性の高さは概ね比例しています(多機能であればあるほどこの傾向は強いように思われます)。
その一方で行き過ぎた演出や広告的な表現は実用性を損ねる原因ともなります。
FlashやJavaScriptによる演出を多用したWebサイトが近年減ってきていますが、これも実用性の欠如という事実の裏返しかもしれません。
まとめ
共通点を探っていくことで、その差異も明らかになってきます。
例えばプロジェクトマネジメントにおいては前提条件や制約事項の多さは共通するものの、その内容は大きく異なります。
また、建築物では内部との外部を分ける比較的わかりやすい境界がありますが、Webではサイトの内外を分ける明確な境界がありません。
(あえて挙げるとすればドメインですが、実際のところユーザーはあまり意識していません)
こうした違いを明らかにしていくことはWebの独自性・オリジナリティを明らかにしていく作業でもあり、Webならではの役割や使い方のヒントも隠されているような気がしてなりません。
そして建築にはWebとは比較にならないほどの歴史と、それに基づく経験則や知識体系があります。
見習うべき点は見習い、役に立ちそうな知見や知識を積極的に取り入れていくこともまた、Webを良きものとするために必要な視点だと感じています。